Sさん
Sさんとはじめて出会ったときのことは、よく覚えていない。
たぶん、普通に挨拶をして、名刺交換をしたのだと思う。
ただ、Sさんが、その場にいる他の人たちとは全然違うということが分かるのに、さほど時間はかからなかったはずだ。
自分の中で思い描いていた業界人のイメージがあり、多くの人がそれに合致する中、Sさんは明らかに、いい意味で異色だった。
ぼくが現場についたとき(定刻の15〜20分前)、Sさんはすでに現場で1人考え事をしていたり、その場にいる人と話をしたりしていた。
そして現場が始まると、Sさんは細かな部分の一つひとつまで、じっと見つめていた
遅れてきた人たちがおしゃべりをしている中で、その輪には加わらず、自分のペースを保っていた。
Sさんはどこまでも真摯に、現場と向き合っている人だった。
Sさんが寡黙で人付き合いが悪い人だということではない。
話をすれば、丁寧な語り口で、いろいろなことを教えてくれた。
個人的に、仕事のことでSさんに相談したり、考えなど参考にさせてもらったりすることも多かった。
ひとつの話題についてディスカッションしたこともある。
そのとき、決してぼくの意見や、誰かを頭ごなしに否定するようなことはなかった。
そして、Sさんの仕上げた成果物は、多くの人が知るように、本当にいいものばかりだった。
知識や話題が豊富で、切り口が鋭く、内容が濃かった。
ぼくも感銘を受けることがしばしばあり、それを本人に直接伝えることもあった。
そんなときは、決まって謙遜していたのだけど。
Sさんは賢く、勉強していて、人当たりが柔らかく、人の話を聞くのが上手な人、というのがぼくの印象だ。
そして何より、ぼくにとっては、業界では数少ない、心から尊敬できる先達の1人だった。
これから行く先が変わるそうだが、きっとそこでも、すばらしい仕事をしてくれるはずだ。
ぼくはしばらく前に現場を離れているので、Sさんと会う機会はめっきり減ってしまった。
機会があるならば、また時間をいただいて、話をできたらうれしい。
そのときに、こちらからもいい話ができればいいのだけど。
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